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びす

私の一番古いワンコの記憶は柴犬の「びす」です。
といっても動いている「びす」の記憶は全くありません。

「びす」は祖父の愛犬でした。
もの心ついた頃にはすでに病気がちだったおじいちゃんがなくなったのは、
私が幼稚園の時です。
亡くなった悲しみより、親戚がいっぱい集まり、たくさんのおみやげを頂き、にぎやかで楽しかった様に記憶しています。

祖父が亡くなって2〜3ヶ月がすぎた頃でしょうか、
祖母が母を呼びながら廊下を走ってきて『びすが死んでる!』といいました。

「びす」の犬小屋へ行ってみると、後ろ足としっぽを小屋の外に投げ出すようにしていた「びす」の姿がありました。その周りには見たこともないくらいのたくさんの蠅が飛んでいたのを憶えています。
祖母と母で『犬は飼い主が死ぬとすぐに死んでしまうというのはほんとうだったね』という話をしていた事もよく憶えています。

「びす」の死は祖父の死よりも悲しかった……。
父が庭の片隅に「びす」の墓を作り、大きな石を墓標にしました。

先日、実家へ帰った折り庭の片隅にあるはずの「びす」の墓を捜したのですが
もうわからなくなってしまっていました。
(現在では犬・猫の遺体を埋めるのは違法だと思いますが昔の話ですので…)

近所のワンコ

「びす」が死んでから家でワンコを飼うまでには6〜7年の月日があります。
でもその間、ワンコと関わりが全くなかったともいえません。

実家のはす向かいに、当時としてはかなりモダンなお家がありました。
広いお庭は、一面の芝生に覆われ、バラが咲き、そんな素敵なお庭でワンコを放し飼いにしていました。
「犬は鎖でつないで飼う」のが常識の時代です。
学校の帰りにそこのお家のフェンスにへばりつき、しばらくワンコとお話をするのが私の日課でした。名前は忘れてしまいましたが、とても品のいいおっとりとした♀のワンコでした。

ある時、「おばちゃん。○○ちゃんのお散歩をさせてください」とお願いをしました。
それまでも、ワンコのお散歩によくくっついていき、時々リードを持たせてもらったりもしていたのですが、一人で連れて行ったことはありませんでした。
叔母さまはしばらく迷ってから「いいわよ。気をつけてね」と言ってリードにつないだワンコを連れて来てくれました。

ところが大変でした。
品のいいおっとりとした♀のワンコのハズだったのにまるで人が(犬が)違ったようにぐいぐいと引っ張ります。右に左に振り回されあたりをほんの一周するだけでへとへとになりました。それでも幸せで……。その後も何回も散歩に連れていかせてもらいました。

ひとりでの散歩にもだいぶ慣れた土曜日の午後の事でした。
それまではお家も周りをほんの一回りだった散歩ですが、思い切って遠出をすることにしました。小学校の校庭までです。ワンコを連れている姿を友達に見せたかったのだと思います。

が、事件が起きました。
突然、ワンコが興奮して思いっきりリードを引っ張り、その力で私が転びリードを離してしまったのです。大事な大事なよそ様のワンコです。もしこのまま捕まえられなかったら……。必死で追いかけました。

あぁ……犬はなんて足が速いんでしょう。
追いかけても追いかけても捕まえられません。学校の敷地内をどのくらい走ったでしょうか。たぶん、私は泣いていたと思います。校庭で野球をしていたお兄さんが、一緒に追いかけてくれました。そして捕まえてくれました。
「ほら、こうやってちゃんと持ってなね」そういって私の手首にリードを2,3回巻き付けました。6年生って大きいわっ
今思えば、叔母さまもなかなかかえってこない愛犬を心配していらしたでしょうね。
そんなことがあってからは、一人でお散歩に連れて行くのはやめました

名無しのワンコ
母は嫌いでした。私が全部世話をするからといっても犬を飼う事を許してくれませんでした。(今の私はワンコは子供が飼うものではないとわかっています)

ある時、家のすぐ裏の空き地で子犬がキュンキュンと泣いていました。
首輪もしていないし、近くには誰もいません。
これはすごいチャンスです!!ようやく自分の犬に巡り会えたのだと思いました。
すぐ、家へ帰り、おやつを持ってまたワンコのところに戻りました。ワンコはお腹がすいていたのか(あるいはただおいしかったのかも)あっという間に私のおやつを平らげ、まるでいつもそうしていたかのように私にじゃれついてきました。私は嬉しくて嬉しく日が暮れるまでずっとその子と遊んでいました。
夕ご飯の時間になり、なかなか家に帰らない私を母が迎えに来ました。

 母「どうしたの?この犬は」
 私「迷子みたいなの……。家に連れて行っていい?」
 母「ダメッ。」
 私「かわいそうだよ」
 母「だめっ。ごはんだから家に入りなさい」

仕方なく、母の言うことには従ったのですが、このワンコが自主的に後からついてくるように、ゆっくりと振り返りながら歩きました。
でも、ワンコはついて来ません。なんでだろう?今まで一緒に楽しく遊んでいたのに……。
飼い主を待っていたのかもしれませんね。

夕ご飯をちょっと残し、『ワンコがお腹をすかしているだろうからあげるんだ』といってまた外へ出ました。半分、もういないかもしれないと思いながら。
でも、ワンコはそこにいました。私が行くとそれは嬉しそうにしっぽを振り飛んできました。家から持ってきたご飯をあげるとペロリと平らげ、私が座ると自然とその横に座って私の顔を見ていました。

 『おウチにおいで』そう、話しかけました。ちゃんと聞いているように思いました。
  『今日はウチの庭で寝ればいいじゃない。明日の朝、またご飯をあげるよ』

これは名案だと思いました。ワンコが勝手にウチに来てしまうんです。私が拾ってきた訳じゃありません。私はただかわいそうだからご飯をあげるだけなんです。
そうやって幾日かが過ぎれば自然と「ウチの犬みたい」な存在になっていくんじゃないか……。自分がちょっとした策士になったように思いました。

私の顔をみて話をちゃんと聞いていたワンコは、今度は私と一緒にウチまで歩いて来ました。庭でお水をあげ居心地の良さそうなところを一緒に捜し、物置から古新聞を持ってきてひいてあげました。

 『おやすみなさい。明日またね』

翌朝、ワンコはいませんでした。昨日の空き地に行ってみるとそこにいました。

 『おはよう、ご飯あげるよ。おいで』

ウチに帰ってパンを持って来ました。ワンコは玄関の前で待ってました。

母は私がご飯をあげていても何も言いません。これは脈があるなそう感じていました。学校に行っている間中、ワンコの事ばかり考えてました。そして、走って帰宅です。

……。でもワンコはいませんでした。庭も、昨日の空き地も、それからもうちょっと足をのばして捜して見ましたがいません。もちろん、母にも聞きました。『ワンコみなかった?』当然、知りません。知っていたとしてもそうは言わなかったでしょうが。

夕食を食べていると父が帰ってきました。

 父「庭に子犬がいるぞ」

文字通りすっ飛んで行きました。間違いなくあの子です。でも……。首にピンクのリボンを巻いてます。食べたものを吐き出していました。そしてまた食べています。

 『どうしたの?このリボン。ご飯どこでもらってきたの?』そんな風に話しかけていると近所に住む2つくらい年下の女の子が走ってきました。

 女の子「○○ちゃん。こんなところにいたの?捜したのよ」
 私「この子、あなたのおウチのワンちゃんなの?」
 女の子「そうです。○○ちゃんかえりましょ」

こうして、名なしのワンコは近所の○○ちゃんになりました。

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